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戦後を問う

 戦後の原点(1)

 晩秋の古都・京都の景勝地、東山。観光客でにぎわう清水寺に向かう石畳から、左に逃げ、しばらく歩くと静かな参道の入り口に出る。ダラダラとのぼり坂が続く「維新の道」を登っていくと、京都霊山護国神社の鳥居にたどりつく。その鳥居をくぐって、右手にある「昭和の杜」の一角に今、私はたたずんでいる。ここは、坂本龍馬、中岡慎太郎をはじめ、数多くの幕末維新の志士たちが眠る聖地です。龍馬と慎太郎の墓標が中腹に並び、日本の将来をうれいた、彼らの熱くたぎる想いとその魂にひきつけられるかのように、今も多くの老若男女が訪れ、手を合わせている。 

 その下方、ふたりの墓にいたる階段を右に折れ、ゆるやかに下る小径を歩いていくと、やがてひとつの碑が見えてきます。そして、セラミックスでつくられたモダンなデザインの碑の前に立つと、自動的に解説の声が聞こえてきます。 

 「当時カルカッタ大学の総長であったラダ・ビノード・パール博士は、一九四六年、東京において開廷された『極東国際軍事裁判』にインド代表判事として着任いたしました・・・・」 

 極東国際軍事裁判のインド代表判事、ラダ・ビノード・パール博士の顕彰碑-。博士は連合国側の判事でありながら、堂々と裁判の違法性を訴え、法の真理に基づき、被告全員の無罪を主張し判決を下した、いわば「日本の大恩人」です。 

 極東軍事裁判は、俗に「東京裁判」と呼ばれ、終戦直後、開かれたこの裁判により日本の戦犯たちが連合国から不当な裁きを受けました。と同時に、東京裁判の有罪判決により、よき日本の伝統はすべて否定され、日本人の精神的風土は土台から破壊されたのです。後で紹介するように、パール博士は、早くから東京裁判に端を発する、戦後日本の行く末を憂慮し、日本人の将来を心配し続け、裁判終了後も、たびたび来日され、日本国民が東京裁判史観により自虐的卑屈におちいらないよう、激励の講演の旅を続けられました。また、博士は国際法委員会委員長としても活躍され、世界に多大な貢献を残されています。こうした功績が認められ、自国インドから最高栄誉賞を、日本からは勲二等瑞宝章を授与されました。 

 今、日本はかつてない混迷の中にあります。あれほど繁栄を誇った日本経済は、バブルの崩壊を境に、活力をすっかり失い、企業ではリストラの嵐が吹き荒れ、景気は出口のないトンネルの中をさまよい続け、人心は荒廃の一途をたどっています。 

 私が接してきた多くの先輩たちが、東京裁判史観からいまだに脱却できない日本人と日本は、やがて底知れぬ陥穽に落ちていくのではないかと、大きな危惧を抱いていました。 

 時とともに、それが現実になるにつれ、先輩たちは、ある種の焦燥感にさいなまれていたように思えてなりません。私の先輩たちであった経済人、政治家、文化人、・・・・戦後日本のリーダーたちの多くが、東京裁判史観によって、日本人に植えつけられた自虐思想をうれい、自主憲法とはとてもいえない日本国憲法の改正を叫び、鬱勃として私たち後輩に戦後の過ちを言葉で指摘してくれました。東京裁判史観、憲法問題、教育基本法・・・アメリカによって形成された戦後システムの過ちにふれ、日本人の史観を、やがて根本から正さなければ日本の未来はないと、熱弁をふるわれていました。 

 今、おそらく四十代以下の方で、日本は侵略国家としての歴史を持ち、かつて日本はアジアに多大な迷惑をかけた悪い民族であったという見方を疑う人はいないのではないでしょうか。日本国憲法は、平和憲法で世界の中でもすばらしい憲法だ、だから守り続けなければならないと考える人がほとんどではないでしょうか。 

 そう思い込んでいることに関して、みなさんに罪はありません。戦後、何が行われたのか、真実がまったくといっていいほど伝わっていないからです。焦土の癒えぬ日本にアメリカの占領軍が上陸してきたのは、昭和二十年九月二日です。この日からアメリカによる戦後処理が本格的に開始されました。それまでの日本の伝統・文化・歴史を否定した異国人によるあらたな日本国の建国です。歴史はゆがめられ、日本人の民族としての誇りは奪われ、そして世代を重ねるにつれ、日本人は間違った自由主義、個人主義に堕し、エゴイズムの虜となり、退廃へと進んでいきます。 

 日本が白人優位の人種観と欧米の圧倒的な経済・軍事態勢の中で、唯一、有色人種として、白人種に互す力をつけ、国際的に見すごせない国にまで発展できたのは、日本人ならではの勤勉さと公のルールを守るという美風があったからです。殺伐とした世の中から脱し、日本が蘇生し、二十一世紀世界のリーダーとして国際貢献を果たすためにも、精神の復活が何よりも重要になります。 

前野 徹 『わが愛する孫たちへ伝えたい-戦後/歴史の真実』より  

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