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報道インタビュー 『中外日報』(2002/11/2)

    ウェブとは「重々帝網」

   ----デジタルアーカイブ「The KUKAI」の着想はどこから。
   空海とデジタル技術の出会いは松岡正剛さん(編集工学研究所所長)とのさまざまなコラボレーションから出てきました。

   ----その動機は。
   「伝える」という「方法」の問題です。私たちは布教とか伝道と言いますが、情報化社会、しかも高速・大容量のコンピュータネットワークの時代に、相も変わらず「口説説教」と「文書伝道」というミニコミでいいのか、既成仏教のアキレス腱はそこじゃないかという疑問。

   ----その2つは、いままで日本の仏教界では有効な「方法」だったのでは。
   それは各宗派の示威宣伝のための「方法」論であって、社会を動かすメディア性やメッセージ性がありません。オウム事件の時に、つくづく思いました。 社会の人々のためにメッセージを出せた宗派も高僧も学者もいなかった。問題意識のほかに、社会に「伝える」という使命感や「方法」が乏しいんです。

   ----仏教が社会を動かすというのは。
   江戸時代は、お寺は行政機関であり教育機関であり医療施設であり福祉施設であり、もちろん死者成仏や国家安穏を祈る宗教施設でした。坊さんも修行者 であり知識人であり教育者であり救済者であり、高潔な人格者でした。だから尊敬もされ発言力もありました。メディアを必要としなかったんです。

   ----明治以降は。
   廃仏毀釈以来苦難の歴史のなかで、坊さんはやむなく死者儀礼と現世利益の「おがみ屋」稼業に甘んじ、それが悪いと言っても始まりませんが、社会の表 舞台からリストラされたまま、社会的な存在感も発言力もなくしました。いま「心の時代」と言われても、私たち坊さんに発言や考え方を社会が求めることはあ りません。

   ----仏教が発言力をもつには情報・メディア性が不可欠。
   例えば、オウム問題が社会をさわがせていた時期に、テレビの報道番組やワイドショーにコメンテーターとして坊さんや仏教学者が出たことはありませんでした。社会が坊さんをアテにしていない証拠です。
そうならば、自らの努力でメディアの世界をクリアーし、社会や人々にメッセージを届けたらどうか、と。「The KUKAI」を私は「エンサイクロメディア空海」と言っていますが、21世紀の「伝える」仕事は、多様・多層であり、多重で高速で大容量です。だから当 然、デジタルな方法までいかなくてはウソ。
さらに言えば、「伝える」方法はもっと多彩であっていい。つまり、「空海」がオペラになり、新歌舞伎になり、新作能になり、落語になるなど、コラボレーション文化が創発されてもいい。空海は「宗」を越えて、時代の「母なるもの」「分母」「OS」になる条件を具えています。

   ----空海密教のなかでITの意義というのは。
   例えば「重々帝網」、これはいわば「ウェブ」。インド的に言えば「インドラ網」、インドラ天の雷光のイメージ。つまり電子ネットワークコミュニケーションです。
空海密教の「法身」も「四種マンダラ」も「六大縁起」も「三密加持」も、双方向の互換性に富んだ高速・大容量・多重・多層のネットワークコミュニケーション。

   ----「The KUKAI」が用意する情報は。
   情報論的に言うと、日常の生活文化情報、つまり「水平情報」として空海の生涯や著作・思想や密教の経典・儀式や密教寺院・仏像・法具や空海のゆかり 人を画像と音声で紹介します。その「水平情報」の一つ一つに「聖」と「俗」を自由往来する「垂直情報」がクロスしてリンクしています。
例えば、空海の書が紹介されると、それは梵字・悉曇・真言に飛ぶ一方、カリグラフィーや文字デザインの仕事場に飛ぶ。そういうメッセージが私たちが目指す発言です。

   ----個人の意識構造からすると、表層から深層へと下りていくイメージだろうが、最終的な到達点では全人類に繋がっているのではないか。
   空海も、国家や民族や言語の枠組みを超えていました。司馬遼太郎さんは、そこを日本初の「天才」と言いました。

   ----人間が作り出した枠組みこそがバーチャルなのかも知れない。
   空海は、「水平情報」と「垂直情報」を自由に往来した人でしょう。空海の密教は、人間が抱える深い問題に何かの解答を情報化しています。
   ----こういう試みは仏教界では珍しい。


   長澤
   日本はいま、国家再生の時。私たちもまた「伝える」方法を更新することで仏教とくに密教の敗者復活戦。「再生」の時代です。

(報道された紙面の文言を少し加筆訂正をしました。
応答・文責 事務局長)

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