----制作のきっかけとねらい、経緯などについて。
デジタルアーカイブ「The KUKAI」は、私たちが行っている「〈母なる空海〉プロジェクト」事業の目玉です。弘法大師空海の生涯を時間軸に、その密教世界のすべてが、静止画・動 画・音声の連想リンクによる多重・多層・高速・大容量の「エンサイクロメディア/空海(空海に関する電子百科事典)」として、ビデオやCD-ROMや DVD(いずれも3巻予定)に収められております。アーカイブとは「情報の運河図」といった意味です。
21世紀は、好むと好まざるとにかかわらず、先端技術の情報伝達ツール(道具)とかかわらなければ、メッセージを「伝える」仕事は成り立たちません。布教 伝道と言う以上は、私たち僧侶も例外ではありません。ならば、バーチャルリアリティー(仮想現実)は信仰の布教伝道になじまないなどと決めつける前に、 21世紀的なデジタルな伝道方法を創造して本気で情報社会に参加してみなければウソだ、と。
私たちは幸運なことに、空海の密教に詳しく、また編集術・デジタルシステム開発では最先端を行くプロ集団とのコラボレーション(相互協力)に恵まれました。編集工学研究所の松岡正剛さん(『空海の夢』著者)とそのスタッフです。
----なぜ今「空海」なのか。また、デジタル社会で密教がはたしうる役割は。
多様性や複雑系、ボーダーレス(超国境)の高度な情報化社会では、「一仏一経主義」の排他系や「独坐瞑想」の閉鎖系の仏教はその役割を終えていくでしょう。
東寺の立体マンダラに代表されるビジュアリティー(可視性)。真言・ダラニから声明に至る音声の宇宙性。さまざまな尊像や密教法具に見られるイコン (象徴の図像・アイコン)。象形や意味の転位がインタラクティブ(双方向)な梵字やマンダラや尊像や寺院荘厳。行法「念誦次第」に見られる場面集(イン ターフェイス)と連想リンク(連結接続)。意味深いメタファー(比喩)に彩られる編集的な著作編集。卒意的でデザイン的で可変的な書法。等々、空海とその 密教世界はすぐれてマルチメディア的。包摂性・互換性に満ちた「密なる」開放系です。そこに、空海の密教の「今日性」があります。
空海には、伝統教学や近代仏教学を離れてそういう解釈の自由や逸脱が起こってもいい、マルチメディアを着た空海がいてもいいと思います。その逸脱か ら、新たな密教絵画や密教音楽、密教デザイン、密教茶、空海カリグラフィー(書法)、空海フォント(文字体)、空海オペラ、空海歌舞伎、空海能、等々が創 発されるとしたら、空海がニューパラダイム(時代共有の新しい思考)の「分母」(「母なる空海」)としてよみがえることにもなります。
この「The KUKAI」には、空海の密教世界に沿ってさまざまな「知」のクリックボタン(画面切替ボタン)があり、それを押すと松岡正剛さん一流の「知」の編集術に 出会ったり、各界著名人の「語り」メッセージが現れたりする予定です。このことは、このアーカイブが単なる無機質なデータベース(閲覧可能な情報資料の集 積)ではなく、社会のさまざまな場で人の心を動かす「知財」となることを私たちが期待していることを意味します。
----今後の活用は。
まずは、真言宗系大学や専修学院の学生・生徒の皆さん、そして真言宗のお寺の住職・職員・家族の方々の、自習教材として、次に檀信徒布教の視聴覚教 材として。さらに、各自治体の図書館や資料館、公私立学校の図書館、宗教関連学会加盟の大学・研究機関、真言各派研究機関に備え付けの電子資料として、あ るいはまた、幼児期から学童期にかけての「知の発達」を促す学習用教材として、おおいに期待できるものと自負しております。
----これまでの活動での印象的について。
9月14日に行った「The KUKAI」デモ版発表フォーラムで議論された「空海・密教と情報」は、空海の密教のメディア性から仮想現実の問題、学習教材の可能性から仕事の発想や動 機づけに役立つ可能性まで、多岐にわたって高度な議論が展開され、画期的なフォーラムだったと自負しています。
また、この頃つくづく感じるのは女性の元気のよさ。私たちのフォーラムにはクリエイティブな仕事をしている女性が多く出席してくれますが、空海を感じ取る新しいチャンネルを予感しています。
(応答・事務局長)